東京オリンピックのエンブレム

 

先日,東京オリンピックのエンブレムのデザインがベルギーの劇場のロゴに似ているということが話題になりました。

 

 

法律的には商標権と著作権が問題になります。

 

 

まず,商標権ですが,商標権というのは登録された商標に発生するものです。ですから,ベルギーのデザイン事務所がロゴを商標登録していなければ商標権侵害にはなりません。

 

 

仮に登録していた場合,商標権の侵害の有無は,他の商品やサービスと混同されるおそれがあるか否かで決まります。具体的には,見た目(外観),呼び名(称呼),イメージ(観念)のいずれか一つ以上が同一か酷似していて,同じ所から出ていると誤解されるかどうかで判断されます。

 

 

今回のエンブレムは,見た目は確かに似ていますが酷似しているとは言えないでしょう。また,呼び方が特にあるわけでもありません。しかも,一方は劇場で一方はオリンピックです。ベルギーの劇場がオリンピックを主催していると誤解する人はいないでしょう。

 

 

本件で問題となるのは著作権です。著作権の場合,何かに登録しなくても作っただけで権利が発生しています。

 

 

今回のケースは,著作権のうちの「翻案権」が問題となります(著作権法27条)。

 

 

「翻案」とは,例えば,小説を映画化する,映画をミュージカルにする,みたいに,もとの作品に修正を加えて新しい作品を作ることです。

 

 

この場合,小説を書いた人と映画化した人が同一だと誤解されることは普通ありません。しかし,通常,無断で小説を映画化すれば著作権侵害になります。

 

 

著作権の侵害にならないためには,著作権者の承諾を得るか,修正が「翻案」に該当しないことが必要です。

 

 

判例によると,「翻案」とは,他の作品に依拠していて本質的な特徴の同一性を維持しながら別の作品を作ることとされています(最判平13.6.28)。

 

 

「依拠」というのは,元の作品から影響を受けているということです。「本質的な特徴の同一性を維持」しているかどうかは,最終的に裁判所の判断となります。

 

 

もし,日本のデザイナーがベルギーの劇場のロゴにヒントを得てエンブレムを作ったのであれば,著作権侵害の可能性が出てくるでしょう。