推理小説や推理ドラマで、「死亡推定時刻は何日の何時から何時頃です」という台詞がよくありますね。
死亡推定時刻ってどうやって推定するのでしょうか。
一般的には、7つの方法があるといわれています。
一つ目。体温の低下です。
人が死亡すると体温が低下していきます。体温の低下の程度は季節によって異なり、冬は1時間に2℃程度下がり、春や秋は1℃程度下がり、夏は0.5℃程度下がると言われています。
しかし、体格や室温などによって体温が下がる度合いは変わってくるため、それだけでは正確には分かりません。
二つ目。死後硬直です。
人が死亡すると筋肉が動かなくなるので体が固まってきます。死後24時間くらいかけて徐々に硬直していきます。それ以降は、逆に酵素が働いて硬直が解けていきます。この体の硬直具合や硬直が解かれている様子を見て死亡時刻を推定する方法です。
しかし、やはり、温度、天気、年齢などで左右されるので絶対的ではありません。
三つ目。死斑です。
人が死亡すると血の巡りがなくなるため、血が重力によって沈んでいき、ところどころに血がたまります。それが死斑です。死斑の有無、大きさ、体位を変えて死斑が移動するか(死斑が移動する場合は死後あまり時間が経過していない)などを確認して推定します。
しかし、死んだ後に体位が変化したりすると、死斑が出現しなかったり死斑の位置が変わったりするので確実とは言えません。
四つ目。角膜の混濁です。
人が死亡すると目の角膜が曇り始めます。これは体が乾燥していくからです。目の角膜は元々潤っていて最も乾燥の影響を受けやすいので指標として用いられます。
しかし、これもやはり、天候などの環境で変化しますし、目が開いているか閉じているか半目なのかによっても変わってきますので確実ではありません。
五つ目。胃の内容物です。
これはイメージしやすいと思います。胃の内容物の消化具合から死亡時刻を推定します。
しかし、胃の消化のスピードは個人差が大きいと言われており、ストレスなどを感じている場合は消化が遅かったりするそうです。
六つ目。膀胱内の尿の量です。
例えば、寝る前におしっこを済ませて寝た場合、寝てすぐに死亡した場合には膀胱内の尿の量は少なく、朝方であれば多くの尿がたまっています。それによってある程度の推定ができます。
しかし、寝る前におしっこを済ませたかどうか、夜中に目が覚めておしっこをしたかもしれないなど不確定な要素もあるので、あまり重視するわけにはいかないでしょう。
七つ目。腐敗です。
人が死亡すると、微生物や細菌により体の細胞が分解されていきます。夏は2日程度で腐敗が始まり、冬は7日程度で腐敗が始まるという目安があり、腐敗の程度によって推定します。
しかし、これもやはり、温度、湿度や死体の水分量によって腐敗の速度が相当変わってくるため、確実ではありません。
結局、どれ一つとっても確実ではないので、法医学の先生は、様々な要素を総合的に考慮し、知識と経験に基づいて推測することになります。
では、7つの要素を総合すれば確実に死亡時刻を当てられるかというと、そうでもありません。一つひとつの要素が不確実なので不確実なものを重ねてもやはり不確実なのです。
ですから、警察が捜査を行う際に法医学医の死亡推定時刻に頼ってしまうと、本当はアリバイがあるのにないことになったり、その逆になったりしてしまう危険があります。
そのため、警察では、「生きている時に最後に目撃された時刻」と「死体が発見された時刻」の間を「死亡推定時刻」と呼んで慎重に捜査を行うようです。推理小説やドラマとはだいぶ違いますね。