法律相談をしていると、「こういう場合、訴えることができますか?」という質問を受けることがあります。
実は、この質問、弁護士泣かせの質問です。答えるのが一苦労なのです。
まず、相談者がどういう趣旨で言っているのかを確認する必要があります。
例えば、相談者の話が「ある人にお金をだまし取られた」という内容の話だったとします。
この場合、相談者は何を求めているのでしょう?
まず、警察に逮捕してもらって刑事事件にして有罪にしてほしいということが考えられます。
刑事事件で「訴える」というと、通常「起訴」のことを意味します。「起訴」とは、検察官が裁判所に対してある人を有罪にするように求めて刑事裁判を起こすことです。
日本では、「起訴独占主義」といって、私人の起訴を認めず、検察官だけが起訴をする権限を認められています。したがって、この意味の場合、答えは「ノー」ということになります。
もっとも、刑事事件で「訴える」というと「告訴」の意味もあり得ます。
「告訴」とは、被害に遭った人が捜査機関に対して被害を申告して「起訴」を求めることです。
「起訴」をすることは検察官しかできませんが、「起訴をしてください」と求めることは私人でもできます。ですから、この意味であれば、答えは「イエス」です。
しかし、告訴をすれば必ず検察官が起訴してくれるわけではないので、その説明も必要になります。
また、民事事件として提訴できるか、という趣旨の場合もあります。
この場合、答えは「イエス」です。日本国憲法では「裁判を受ける権利」が認められています。私人間の紛争について裁判所で結論を下してもらう権利が保障されているのです。
しかし、おそらく相談者はそういうことを聞いているのではなく、「裁判で勝てるか」という趣旨で聞いている場合が多いと思われます。
この意味の場合、ご相談のケースに応じて、「ある程度、勝算はあります」とか、「かなり難しいでしょう」とか、「やってみなければ分かりません」などと答えることになります。
このような話を全て説明しなければ、法律家として正確に答えたことになりませんので、「訴えることができますか?」という質問は弁護士泣かせの質問なのです。