私たち弁護士は「ご自身が亡くなられた場合に備えて遺言書を書いておきましょう」と皆様にお勧めしているのですが、遺言書を書いていても揉める場合があります。
遺言書を作成していても揉める場合というのは、一つは、遺言能力が争われるケースです。
特に、自筆証書遺言の場合に遺言能力が争われることが多いといえます。
遺言書にはかならず日付を記入しますが(日付がないと無効)、遺言者が亡くなられた後に、「その日付の頃は認知症がかなり進んでいたから、こんな内容の遺言を書けるはずがない」というクレームが出たりします。
これに対して、公正証書遺言の場合は、公務員である公証人と2名以上の立会証人の前で遺言の内容を伝えますから、そこで遺言能力がチェックされています。ですから、「遺言能力はなかったはずだ」という争い方は難しくなります(それでも争いになることはありますが)。
二つ目は、遺留分で揉めるケースです。
兄弟姉妹以外の相続人には、法律上、遺留分が認められています。
遺留分というのは法律が相続財産について最低限の確保を保証してくれる相続人の取り分です。
遺言書の中には「すべての遺産を〇〇に相続させる」というものが結構あります。
その場合、兄弟姉妹以外の相続人(配偶者や子ども等)がいると、その相続人の遺留分を侵害していることになります。
遺言書を残したからといって絶対的ではないのです。
このような遺言書の場合、「遺産のうち遺留分に相当する金銭を払ってくれ」と揉めることがあります。
もっとも、遺留分の割合は法律で決まっているので揉める余地はないのではないか、と思う方もおられるかもしれません。
この点、遺産が預貯金だけであれば、預貯金の総額を「4分の1」とか「8分の1」で割り算をすれば遺留分の額が決定しますので、基本的に揉めることはあまりありません。
しかし、問題なのは遺産に不動産が含まれる場合です。
遺産に不動産が含まれていると、例えば「遺産総額の4分の1を払え」と言っても金額がすぐには確定しません。不動産の評価にはいろいろな方法があるからです。一般的には固定資産税評価、路線価評価、時価(実勢価格)などがあります。
遺留分「4分の1」を金銭でもらう側としては不動産の評価が高いほど多くの金銭をもらうことができます。逆に「4分の1」をお金を支払う側は不動産の評価が低い方が払う金額が少なくて済みます。
そのため、不動産の評価額をめぐって争いが起きるのです。