今回は、「遺産確認請求訴訟」についてご説明します。
遺産分割を行う場合、通常、「何が被相続人の遺産であるか」(遺産の範囲)について争いはありません。
遺産分割で揉める場合は、たいてい「遺産の分け方」で争いになるのです。
しかし、稀に、遺産の範囲が争点になることがあります。
例えば、「このマンションの名義は被相続人名義だが、私(相続人)が住宅ローンを全額支払って完済したのだから、実質的には私の物であって遺産ではない」という主張が行われることがあります。その逆の場合もあります。
一般的に、遺産分割で揉めた場合、家庭裁判所で調停や審判を行うことになります。
ところが、上記の例のように、「この財産は被相続人の遺産か」という点が争いになった場合は民事訴訟となり、争いの場は地方裁判所になります。
この裁判が「遺産確認請求訴訟」です。
なぜ、この問題は家庭裁判所ではなくて地方裁判所で審理するのでしょうか。
この話を説明するためには、家庭裁判所がどういう役割を持った裁判所であるかという話からする必要があります。
家庭裁判所は、家族関係に関する問題や親族間の紛争を解決するための裁判所であり、裁判の公開原則(憲法82条)が適用されず、非公開で審理が行われます。
そのような扱いが許されるのは、家庭裁判所では権利義務に関する紛争を扱わないからです。
権利義務に関する紛争を解決するためには、国民の裁判を受ける権利を保障するために公開の裁判で行う必要があります(公開することで裁判の公正さが確保される、という考え方)。
ここで疑問が生じます。「遺産分割調停・審判というのは、『権利義務に関する紛争』ではないのか?」と・・・
実は、遺産分割調停・審判は「権利義務に関する紛争」ではないのです。
考え方としては次のようになります。
相続開始により、法定相続人は被相続人の財産を法定相続分に応じて取得します。
そして、遺産分割とは、法定相続分に応じて各相続人が「既に取得した」権利を調整すること(誰がどの財産を取得するかを決める)に過ぎないのです。
ですから「権利義務に関する紛争」ではないのです。
これに対して、「この財産は被相続人の遺産ではなく私の財産である」という主張がなされると、「被相続人の財産(=相続人の共有財産)なのか相続人のうちの1人の財産なのか」という権利に関する紛争(所有権が誰に帰属しているのか)になってしまいます。
そのため、家庭裁判所の管轄ではなく地方裁判所(公開の裁判)で行う必要があるのです。
もっとも、判例は、常に民事訴訟による判決の確定を待って遺産分割の審判をすべきものというのではなく、家庭裁判所が審判手続において権利の存否を審理判断した上で、分割の処分を行うことも差し支えないとしています(最高裁昭和41年3月2日判決)。
しかしながら、家庭裁判所が行った権利義務に関する判断に関しては既判力がないので(公開の裁判を行っていないので、憲法の要請上、既判力を持たせるわけにはいかない)、家庭裁判所が判断を下した後に、民事訴訟で審理し直すことが可能となります(その結果、民事訴訟で結論が覆ることもあり得ます)。
そのため、実務では、遺産の範囲に争いがある場合には、家庭裁判所は当事者に対して民事訴訟で権利を確定させるように促す(権利が確定してから家庭裁判所で調停・審判を行う)ことにしています。