遺産分割をする際の不動産の時価とは

遺産分割の相談を聞いていると、「不動産は時価で評価するのですか?」「時価は誰が決めるのですか?」という質問をよく受けます。


この質問については、段階をおって説明することになります。

 

まず、原則的に、遺産分割は相続人が話し合って遺産の分け方を決めるものです。


したがって、仮に、遺産の中に「甲土地」「乙土地」「預貯金」があったとして、「相続人Aが甲土地を取得し、相続人Bが乙土地を取得し、相続人Cが預貯金を取得する。」との合意が形成されたならば、それで解決なのです。

 

無理して「不動産の評価額」を決定する必要はないのです。

 

ただし、合意を形成するために不動産の評価額を参考にすることは、もちろん構いません。


その場合、「固定資産税評価額」や「路線価」などを参考にする場合があります。


上記の例でいえば、例えば、甲土地の固定資産税評価額と乙土地の固定資産税評価額と預貯金の額がおおむね同程度の額であれば(多少の差があったとしても)、全員が納得しやすいでしょう。

 

これに対して、甲土地の固定資産税評価額が乙土地の固定資産税評価額の2倍程度だとすれば、「相続人Aがもらいすぎ」という不満が出ることもあるでしょう。

 

このように、不動産の評価というのは、相続人が納得するための一つの目安として用いるものです。

ですから、何が何でも「時価」にこだわる必要はないのです。

 

ところが、相続人間の対立が激しい場合には、「絶対に時価で評価すべきだ」という意見が出ることがあります。


特に代償分割(ある相続人が不動産を取得する代わりに他の相続人に対して相応の金銭を渡す分割方法)の場合に、「金銭を幾ら支払うか」という場面でこじれることがあります。


不動産を取得して金銭を渡す側の相続人にとっては、不動産の評価額は低いほうが助かります。逆に金銭をもらう側の相続人にとっては、不動産の評価額が高いほうが多く金銭をもらえるということになります。


このような場合、「固定資産税評価額」や「路線価」は必ずしも時価ではないということで争いになるのです。

 

それでは、「時価」とは何でしょうか?


「時価」は「実勢価格」や「市場価格」などとも呼ばれます。

 

例えば、きゅうりやトマトの「時価」はスーパーマーケットで販売されている価格を調べればだいたい分かります(お店によっても価格は異なりますが、だいたい同じ時期の価格は似たような価格となります。)。

 

これに対して、不動産の時価を判断するのは難しいことです。

 

「同じような土地」といっても、立地、土地の形、角地かどうか、陽当たりの良さ、法律上の規制等によって価値が異なってくるので、他の土地と単純に比べるわけにはいきません。

 

この点、不動産仲介業者に依頼すれば、おおまかな査定が出てきます。

 

しかし、不動産仲介業者の査定は、あくまでも、「売り出すならこのくらいの価格から売り出しましょう。様子を見て反響が悪ければ価格を下げましょう。」という感じのものであり、実際の売買価格をピタリと当てることはできません。

 

では、誰なら「実際の売買価格をピタリと当てる」ことができるのでしょうか。


それは誰にもできないのです。

不動産は売ってみないと「時価」は分からないのです。

結果的に売れた価格が「時価」ということになるのです。

 

そうすると、上記の例に戻って、実際に売ることなく「時価」を出すにはどうしたらよいのでしょうか。


当事者が不動産の評価額に合意できない場合には、家庭裁判所の遺産分割調停・審判を利用することになります。

そして、その手続きの中で、「鑑定」という手続きを行い、不動産鑑定士が「時価」を算出することになります。

裁判官は基本的に不動産鑑定士が算出した金額を「時価」と認定します。

 

この場合でも、不動産鑑定士が算出した金額は本当の「時価」ではないかも知れません(先ほど述べたように、本当の時価は結果的に売ってみなければ分かりません。)。


それでも、裁判官は結論を出す必要があるので、これを「時価」と結論付けて判断を行うのです。