ときどき、「特別受益に時効はありますか?」という質問を受けます。
こういう質問を受けた場合、まず、質問の趣旨を確認しなければなりません。
まず、「父が2か月前に亡くなりました。相続人は姉と私(妹)の2名です。私は30年前にマンションを購入する際に父から1000万円の援助をもらっています。30年も前のことなので時効ですか?」という質問の場合。
この質問であれば、「時効ではありません」という回答になります(正確には「時効」という制度自体ありませんが)。
法定相続人が被相続人から生計の資本として贈与を受けた場合、何年前の贈与であっても特別受益であり、遺産分割の際には持戻しの対象となります(持戻し免除の意思表示がある場合を除く)。
次に、「父が2か月前に亡くなりました。相続人は姉と私(妹)の2名です。父の遺言があり、全財産を私に相続させるという内容です。姉は私に対して遺留分侵害額請求を行いました。私は30年前にマンションを購入する際に父から1000万円の援助をもらっています。30年も前のことなので時効ですか?」という質問の場合。
この質問であれば、(「時効」という制度ではないですが)「遺留分を算定するための基礎となる財産に30年前の1000万円の贈与は含まれません」という回答になります。
これは平成30年民法改正(施行は令和元年7月1日)により、遺留分算定の基礎財産に含める特別受益を相続開始前10年間に制限したからです(民法1044条3項)。
さいごに、「父が亡くなってから15年経ちました。相続人は姉と私(妹)の2名です。これから姉と遺産分割の話し合いをしようと思います。父が亡くなる3年前、私がマンションを購入する際に父から1000万円の援助をもらっています。この特別受益は時効になりますか?」という質問の場合。
この質問の場合、(「時効」という制度ではないですが)「お姉様はあなたに対して1000万円の贈与を特別受益として主張することはできません」という回答になります。
これは令和3年民法改正(施行は令和5年4月1日)により、相続開始から10年経過した後の遺産分割では特別受益の主張ができないことになったからです(改正後民法904条の3柱書)。
ただし、改正の経過措置として、改正法施行後5年間は特別受益を主張することができますので、上記の例の場、令和10年3月31日までであれば、姉は妹に特別受益を主張することが可能です。