法定相続分は民法で決まっているにもかかわらず、遺産分割で争いが生じるのは、ほとんどの場合に特別受益が絡んでいるからと言っても過言ではありません。
今回は、特別受益になるか否かについて裁判所がどのような判断基準で考えているかについて検討してみます。
その前に「必ず特別受益になるもの」について確認しておきます。
民法903条1項によると、「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け」「た者があるときは」「その贈与の価額」を持ち戻すことになっています。
したがって、共同相続人に対する遺贈はその額や理由にかかわらず持戻しの対象になります。
また、死因贈与は、原則として遺贈に関する規定に従うことになっていますので(民法554条)、遺贈と同様に、金額や理由にかかわらず持戻しの対象となります。
さらに、「相続させる」旨の遺言の場合であっても、その結果は遺贈とほぼ同じですので、遺贈と同様に持ち戻し計算をすべきとされています(山口家裁萩支部平成6年3月28日審判、広島高裁岡山支部平成17年4月11日決定等)。
もっとも、「持戻し免除の意思表示」(民法903条3項)が認められる場合は別ですので、その点は注意が必要です。
それでは、「特別受益の判断基準」が問題となるケースを見ていきましょう。
民法903条1項によれば、「共同相続人中に、被相続人から」「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として」「贈与を受けた者があるときは」「その贈与の価額」を持ち戻すことになっています。
「婚姻若しくは養子縁組のため」に該当するか否かについては、結婚式費用や結婚祝いなどがよく問題となります。
また、「生計の資本として」に該当するか否かについては、被相続人からの生活費の援助や被相続人名義の建物に無償で居住していた場合の賃料相当額などがよく問題となります。
これらについて、裁判所は、贈与の経緯や金額、被相続人の資産の規模などの諸事情を検討して、「遺産の前渡し」といえるかどうかという判断基準で判断しているようです。
すなわち、特別受益の制度趣旨が、一部の相続人に対して「遺産の前渡し」があった場合にその額を持ち戻すことによって相続人間の公平を図るというものであることからすれば、その趣旨に照らして「被相続人は遺産の前渡しのつもりで贈与したのか」という観点から考える必要があるのです。
そうすると、結婚式費用や結婚祝いは相場程度のものであれば「遺産の前渡し」とはいえないでしょう。
生活費の援助も扶養の範囲内程度のものであれば「遺産の前渡し」とはいえず、特別受益には該当しないことになります。
被相続人名義の建物に無償で居住していた場合の賃料相当額についても、被相続人としては「遺産の前渡し」というつもりで無償で居住させていたわけではないと考えられますので、特別受益には該当しないと思われます。