相続開始後に引き出した預金を遺産分割の対象にすることはできるか

使途不明金(使い込み)の相談は多いのですが、今回は、相続開始後に引き出された預貯金が法律上、どのように扱われるかについて書いてみたいと思います。

 

相続開始後(被相続人が亡くなった後)に相続人の1人が被相続人名義の預貯金を引き出して処分した場合、平成30年民法改正の前後で扱いが異なります。

改正後の民法が適用される場合(被相続人が令和元年7月1日以降に死亡した場合)の取り扱いは以下のとおりです。

 

預貯金を引き出した相続人以外の相続人全員の同意により(引き出した相続人の同意は不要)、 引き出した預貯金を遺産として存在するものとみなすことができますので(民法906条の2)、実質的に預金を取り戻した形で遺産分割調停または審判により解決することが可能です。


ただし、相続人が「預貯金を引き出した事実」を認めない場合には従来どおり民事訴訟で解決するしかありません。

 

改正後の民法が適用されない場合(被相続人が令和元年7月1日より以前に死亡した場合)の取り扱いは以下のとおりです。

 

預貯金を引き出した相続人が金銭を費消又は領得(いわゆる使い込み)をしている場合には、他の相続人は不当利得返還請求権又は不法行為に基づく損害賠償請求権に基づいて預貯金を引き出した相続人に対して返還請求を行うことが可能です。


この場合に預貯金を引き出した相続人が使い込みを認めない場合は(遺産分割調停・審判ではなく)民事訴訟で争うことになります(コラム「なぜ使途不明金は家庭裁判所で判断できないのか」参照)。

 

もっとも、預貯金を引き出した相続人が被相続人のために正当に金銭を使った場合(相続債務の支払い・遺産である不動産の固定資産税の支払い等)には不当利得や不法行為とはいえませんので、取り戻すことはできません。