今回は、遺言執行者が任務を行わない(任務懈怠)場合に取り得る方策について書いてみます。
一口に「遺言執行者が仕事をしない場合」といっても、「遺言書で遺言執行者として指定されているのに遺言執行者に就任しない場合」と「遺言執行者に就任したにもかかわらず、遺言執行者としての適切な任務を行わない場合」があります。
まず、「遺言書で遺言執行者として指定されているのに遺言執行者に就任しない場合」について。
実は、遺言書で遺言執行者として指名されている場合でも、必ず遺言執行者に就任しなければいけないという義務はありません。遺言執行者の就任を拒否することもできるのです。
一般的に、遺言執行者として指名された人が遺言執行者への就任を承諾した場合には、相続人に対して「遺言執行者就任通知書」を送付します。
その際には、「遺言の内容」を通知しなければならず(民法1007条2項)、通常は遺言書のコピーを同封します。
仮に、遺言執行者として指名された人から一向に「遺言執行者就任通知書」が届かない場合はどうすればよいでしょうか。
このような場合に備えて法律は手立てを用意しています。
民法1008条は「相続人その他の利害関係人は、遺言執行者に対し,相当の期間を定めて,その期間内に就職を承諾するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、遺言執行者が、その期間内に相続人に対して確答をしないときは、就職を承諾したものとみなす。」と規定しています。
つまり、遺言執行者として指定された人に対して「あなたは遺言執行者に就職(就任)するのですか。しないのですか。はっきりしてください。」という催告を行って、期間内に明確な回答がなければ遺言執行者に就任したことになるのです(もちろん、就任を拒否する旨を回答すれば就任しないことになります。)。
(遺言執行者に就任したことになったにもかかわらず仕事をしない場合は後述の流れになります。)
次に、「遺言執行者に就任したにもかかわらず、遺言執行者としての適切な任務を行わない場合」について。
この場合には、遺言執行者の解任を検討することになります。
遺言執行者の解任については民法1019条1項に規定があり、「遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる。」とされています。
条文をよく読むと分かりますが、「利害関係人」(相続人等)ができるのは「解任を家庭裁判所に請求すること」です。
「利害関係人」が「解任すること」はできません。
そして、請求を受けた家庭裁判所が審理した上で解任するか否かを判断します。
その際の判断基準は、遺言執行者が「任務を怠った」といえる場合や解任するについて「正当な事由」がある場合、ということになります。
実際にどの程度の任務懈怠等があれば解任されるかについては何ともいえません。裁判実務では諸事情を全体的に考慮して判断しているようです。