例えば、父親(被相続人)に長男と二男がいたとします(被相続人に配偶者はいないものとします)。
父親は「自宅を長男に相続させる」との遺言書を作成しました。
ところが、長男が被相続人より先に死亡してしまいました。
この場合、上記の遺言書によって長男の子は代襲相続人として自宅を相続できるのでしょうか。
代襲相続とは、被相続人の子が相続開始以前に死亡している場合、その者の子がこれを代襲して相続人となる制度です(民法887条2項本文)。
代襲相続の制度が遺言の場合にも適用されるのかという問題です。
下級審の裁判例は、代襲相続否定説(当該遺言部分は効力を有しない)を採るものが多かったところ(札幌高裁昭和61年3月17日判決、東京高裁平成11年5月18日判決等)、他方で代襲相続肯定説を採るものもあり(東京高裁平成18年6月29日判決)、判断が分かれていました。
この点について、最高裁平成23年2月22日判決は、「『相続させる』旨の遺言は、当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、当該『相続させる』旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が上記の場合には、当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力を生じることはないと解するのが相当である。」と判示し、原則として代襲相続否定説の立場を採ることを明らかにしました。
つまり、上記の例でいえば、「自宅を長男に相続させる」との遺言部分は効力を有しないため、長男の子は遺言の効力として自宅を代襲相続することはできず、自宅を誰が取得するかについては二男と長男の子(代襲相続人であることに変わりはない)とで遺産分割協議を行うことになります。