今回は、平成30年相続法改正で新設された遺言書保管制度について考察してみます。
遺言書保管制度とは、法務局で自筆の遺言書を保管してくれる制度です(法務局における遺言書の保管等に関する法律)。
遺言者は法務局に民法968条に定める方式(自筆証書方式)による遺言書の保管を申請することができます。
遺言書の保管が申請された場合、法務局の事務官が、本人確認を行い、自筆証書遺言の形式を満たしているかについて外形的に確認して、問題がなければ遺言書を法務局で保管します。
これにより、遺言書の形式的要件のミスを防止できますし、遺言書の紛失、変造、隠匿等も防止することができます。
ただし、遺言書を法務局が保管していることを相続人等が知らなければ、せっかくの遺言が無意味になってしまいます。
そのため、法律では様々な工夫を用意しています。
例えば、遺言者の死後、相続人等は法務局に問い合わせて、被相続人の遺言書を保管しているかどうかを確認することができます(遺言書保管事実証明書の交付)。
その結果、遺言書が保管されていることが判明すれば、遺言書の内容を確認することができます(遺言書の閲覧又は遺言書情報証明書の交付)。
また、遺言者が遺言書保管制度を利用していることを相続人等に気づいてもらうために、遺言者が希望すれば、遺言者が死亡した場合に、予め遺言者が指定した者(3名まで指定可能)に対して遺言書が保管されている旨を通知する制度があります(「死亡時通知」又は「指定者通知」ともいう)。
この制度を利用すれば、遺言者が相続人等の誰にも遺言書の存在を知らせていなかった場合であっても、遺言書が発見されないまま相続手続きが進められてしまうことを防ぐことができます。
その他、遺言者の死亡後に、相続人等が、遺言書の閲覧をした場合や、遺言書情報証明書の交付を受けた場合には、遺言書が保管されている旨を全ての相続人、受遺者及び遺言執行者に対して通知します(「関係遺言書保管通知」)。
この制度により、相続人の1人が他の相続人に黙って遺言を執行してしまうようなことを防止することができます。
なお、遺言書保管制度を利用した自筆証書遺言は家庭裁判所の検認が不要です。
このように、遺言書保管制度は、遺言書の形式面のチェックをしてもらえるので安心できますし(内容についてのチェックはありませんが、少なくとも形式不備による無効を防止できます。)、紛失や変造を防止でき、遺言者が死亡した後に遺言書の存在に気づかれないことを防止する工夫も用意されています。
そして、家庭裁判所の検認手続も不要ですので、手続き面での負担も小さいと思います。
以上より、遺言書保管制度は非常に使いやすく便利な制度だと思います。