遺産分割調停において、遺産である不動産の時価が争いになる場合があります。
例えば、相続人が長男と二男の2人で、遺産の中に不動産が2物件あるような場合で(実家と別荘など)、1つの物件を長男が取得する予定で、もう1つの物件は誰も必要としていないので売却を考えている、というケースがあります。
このような場合、調停の当事者としては(上記の例の場合、長男も二男も双方とも)、売却を考えている物件のみ先に売ってしまって金額を確定したいと思うことがあります。
なぜなら、不動産の査定や鑑定を行っても、その結果出てきた数字は確実に「時価」であるとはいえず、結局のところ、不動産の時価というのは「実際に売れた額」だからです。
それでは、遺産分割調停の手続きの中で1つの物件を売却することはできるでしょうか。
上記の例で、長男と二男の双方とも、遺産分割調停の手続きの中で売却を希望する場合、当事者双方の意見が一致しているので、そのように話を進めてもいいようにも思えます。
しかしながら、結論としては、遺産分割手続きの中で「とりあえず1つの物件を売却する」ということはありません(少なくとも私の経験上、できたことはありません。)。
裁判所は常に多くの案件を抱えています。遺産分割調停の手続きの中で不動産を売却するとなると、売却が実現するまで調停が終わらないことになります。
裁判所としては調停の進行を中断させたまま長期間保留状態にするという余裕はないのです。
したがって、上記の例のような場合、「とりあえず売却」ということにはなりません。
では、どうするかというと、例えば、「実家は長男が取得する。実家の評価額は○○円とする。別荘は長男と二男が協力して売却し、売却価格から必要経費を控除した額を二男が取得する。長男は二男に対し、実家の評価額と二男の取得額の差額の2分の1に相当する額を代償金として支払う。」(実家の評価額が別荘の評価額より明らかに高額である場合)という調停条項で調停を成立させます。
調停の成立により、この案件は裁判所の手から離れます。
その後、長男と二男は協力して別荘を売却し、調停条項に従った処理を行うことになります。