当事務所では家族信託も扱っています。
家族信託は成年後見制度より柔軟な対応ができるなどメリットは大きいのですが、法律的にはかなり難しい内容を含んでいます。
法律的な論点の一つとして、家族信託で設定した内容と遺言の内容が一見異なるように見える場合にどちらが優先されるのか、という問題があります。
例えば、父親Aがいて、子どもB,Cがいるとします。
父親Aが、先に「私の財産は全てBに相続させる」との遺言を作成した後に、AとCが信託契約を結び、一定の財産を信託財産とし、同信託財産の帰属権利者をCに指定した場合、一見すると、信託財産の部分についてBが取得するのかCが取得するのか分からないように思えます。
上記の例では、民法の規定により家族信託が優先することになります。
すなわち、民法1023条2項によると、遺言と遺言後の法律行為が抵触した場合、抵触する部分については遺言が撤回したとみなされる、とされています。
したがって、上記の例では、信託財産の範囲で家族信託と遺言と抵触しますので、「遺言後の法律行為」である家族信託の締結によって、信託財産の部分については遺言が撤回されたとみなされるのです。
これに対して、先にAとCが一定の財産を信託財産とする家族信託を締結した後に、Aが「私の財産は全てBに相続させる」との遺言を作成した場合はどうでしょうか。
この場合は家族信託の性質から考えることになります。
一定の財産を信託財産として設定すれば、その財産はもはやAの固有財産ではなくなり、「誰のものでもない」特殊な財産となります。
したがって、家族信託を締結した後に「私の財産は全てBに相続させる」との遺言を作成しても、信託財産は「Aの全ての財産」に含まれていないので、Bが相続することにはなりません。
よって、この場合も信託財産の部分については家族信託が優先するということなります。